2019/3/28/ 05:59

【日本企業】なぜ大企業はエイジングテックに取り組むのか?

【日本企業】なぜ大企業はエイジングテックに取り組むのか?

BlurryMe/Shutterstock

超高齢化社会は、日本の社会課題ではある一方、人口構造が大きく変わる事業機会だとも言える。その変化を捉え、日本の大企業たちの一部は、すでに動き始めている。新規事業開発や調査を通じて、超高齢化社会を"チャンス”に変えるべく、アプローチしているのだ。トライアンドエラーを繰り返し、事例やノウハウを蓄積している段階ではあるが、いち早くエイジングテックに取り組む、3社の事例を紹介したい。

「昔、SOMPOは保険会社だったらしい」と言われたい

 エイジングマーケットに積極的に切り込んでいるのは、大手保険会社のSOMPOホールディングスだ。これから人口減に伴い保険マーケットが縮小していく中で、新たな事業の柱として、介護、リフォーム、セキュリティに取り組んでいる。CEOである櫻田謙悟氏は「昔、SOMPOは保険会社だったらしい、と言われたい」と語り、現状を打破し改革する意思を示している。

 新規事業の中で、最も力を入れているのが介護事業だ。2015年12月にワタミの介護、2016年3月にメッセージなどを買収し、介護事業に本格参入。現在は介護ベッド数では国内1位、売上では国内2位となっている。

 同社は先端技術の取り込み、スタートアップとの協業にも積極的だ。ホールディングス傘下のSOMPO Digital Labでは、介護や認知症のケアなど、高齢化社会が抱えるさまざまな課題の解決に向けて、新しいソリューションを開発している。

 シリコンバレーと東京、イスラエル・テルアビブの3ヵ所に拠点を設け、ITなど先端技術に関するリサーチや、スタートアップへの出資、スタートアップとの協業によるソリューションの開発などを展開する。

 今年も、2月にシリコンバレーのスタートアップであるNeurotrackとの共同開発に向けた実証実験を発表した。同社はスマホで視覚認知テストを行い、認知症の発症を検出できるアプリを提供する。日本では共同で、認知機能の低下予防を目指すプログラムを立ち上げるという。

 SOMPO Digital LabのCEO池端大輔氏によると、「シリコンバレーでエイジングテックと呼べる企業は少なく、100社にも届かない程度」だが、これから急速に伸びていくマーケットであり、日本が先進事例をつくることができる領域だ。

 今後注目すべき領域について、池端氏はデジタルテクノロジーの導入による介護業務の効率化、高齢者の移動手段となるモビリティ、人とのつながりを作るコミュニティなどを挙げた。具体的な取り組みについては池端氏のインタビュー記事をご覧いただきたい。

【SOMPO】テクノロジーで高齢化社会の課題解決に挑む

東京電力グループが注目する「エネルギーの次のビジネス」。

 2017年9月、東京電力グループはTEPCO i-フロンティアズを設立。東京電力グループが持つ2000万軒以上の顧客基盤に対して、新規サービスを開発している。そんな同社にとって、最も重要な新規事業領域のひとつがエイジングマーケットだ。

 副社長の菊池英俊氏は「電力自由化に伴ってエネルギーの価格競争が激化している。もはや電力事業での利益拡大は難しく、新たな事業の切り口を探す中、注目したのが高齢者向け市場だった」と語る。

菊池 英俊 TEPCO i-フロンティアズ株式会社 副社長
京都大学工学部化学工学科卒。株式会社リクルートのHR事業部門にて営業・事業企画・海外事業開発等を10年に渡り経験。コンサルティング会社を経て、2017年、TEPCO i-フロンティアズ株式会社の副社長に就任。

 エイジングマーケットは「介護」という切り口で分けると、要介護者向けサービスと、要介護となる前の人向けサービスがある。要介護者向けのサービスは、国の介護保険制度もあり、すでに一大産業となっている。これから成長が期待されるのが「要介護になる前の人向け」のサービスだ。

 要介護になる前の人たちは、まだ元気で介護を受ける必要性はないが、日常生活を送るのに支障が出始めている。家族は心配であるし、もっと楽に老後の生活を送ってほしいと考えている。

 そういった声に応えるべく、TEPCO i-フロンティアズでは、「見守り・セキュリティ」「イエナカ」「ホームコンテンツ」「コミュニケーション」「ヘルスケア」「ホームオートメーション」の6つの領域に注目し、新サービスの開発に取り組んでいる。

画像提供:TEPCO i-フロンティアズ

 たとえば、遠く離れていても生活の様子がわかる「見守りサービス」。エアコン、炊飯器、洗濯機などの家電の電力消費量を見える化し、遠隔でも異変を察知できるようにしたサービスだ。またグループ会社のCVCでは、家事代行会社などにも出資し、シニア世代の家事負担を軽減させるサービスを支援する。

 今後、市場の成長性は大きいと見られるが、「まだまだ模索している段階で、日頃情報交換する各社とも試行錯誤中だ」(菊池氏)という。

 菊池氏は「70代以上の高齢者はテクノロジーにそれほど慣れ親しんでいないし、生活スタイルの変化に対しても保守的。生活に新しいものを持ち込んで便利にするより、自分でできることは自分でやってしまいがちだ。エイジングマーケットが顕在化するまでまだ時間がかかるかもしれない。だが、それは決して遠い未来のことではない」と語る。

沖電気が取り組む「歩くだけで異常を発見できる靴」「よい眠りをとるほどご褒美がもらえるウェアラブル」

 沖電気工業(以下、OKI)は通信機器、ATMなどを開発する情報通信機器メーカー。もともと国産電話機を製造していた「電電ファミリー」であり、顧客は通信キャリア、金融機関、官公庁などが中心だ。

 OKIは2017年よりイノベーション推進に積極的に取り組んでいる。その背景は、顧客の期待が変化してきたことにある。激しい環境変化の中、顧客は自社で取り組むだけなくパートナー企業からもビジネスアイデアを求めるようになった。顧客から「OKIさん、提案してくれませんか?」と言われる機会が急激に増えてきたのだという。

 社内のイノベーションの推進役を担っているのは、執行役員の横田俊之氏。2017年10月にイノベーション推進プロジェクトチームが発足させ、2018年にはイノベーション創出プロジェクトとして、2018年4月より「Yume Pro(夢プロ)」を立ち上げた。

 「Yume Pro」はスタートアップや顧客である大企業と共創しながら、新たなイノベーションを生み出すプロジェクトだ。「今までは顧客のところに通い、顧客からニーズを聞いて開発すればよかった。だがイノベーションを起こすには、顧客だけでなく顧客の顧客であるエンドユーザーに直接アプローチしていかなければいけない」と横田氏は語る。

横田 俊之 沖電気工業株式会社 執行役員 経営基盤本部長
1983年、通商産業省(現・経済産業省)入省。2014年にはジェトロ・ニューヨーク事務所長に就任。2016年に沖電気工業株式会社に入社、執行役員、経営基盤本部長に就任。2018年にイノベーション創出組織「Yume Pro」を立ち上げた。

武市 梓佐 沖電気工業株式会社 経営基盤本部 課長代理
海外IT商品を取り扱う専門商社を経て、2018年に沖電気工業株式会社に入社。

 「Yume Pro」は事業と組織の両面からイノベーションを推進する。事業面では、新たな領域でスタートアップや大企業と連携しながら案件をつくり、ファーストカスタマーを見つけた段階で事業部に引き継ぐ。

 組織面では、社内でイノベーションについての考え方を浸透させる仕掛けを作っている。たとえば1000人規模で実施済みのイノベーション研修や、社長とランチしながらイノベーションについて語り合うイノベーションダイアログを運営する。

 「Yume Pro」のミッションは、SDGs(Sustainable Developments Goals:国連が定めた持続可能な社会を作るための開発目標)の解決としている。大きなテーマとしているのは「ヘルスケア」「次世代物流」「住宅生活まちづくり」の3つだ。

 特にヘルスケアの分野では介護支援、認知症予防の領域に力を入れている。イノベーション推進部の武市梓佐氏は「メンバーの中に、家族が介護を受けている方もおり、強い想いを持って立ち上げました。介護施設などに足を運び、現場の方々とディスカッションしながらサービスを開発しています」と語る。まだ詳細は明かされていないが、介護職員の人手不足の解消、介護業務の効率化などにアプローチしていくという。

 認知症予防については「運動」「睡眠」などのテーマでプロジェクトが進んでいる。たとえば「運動」のテーマでは、靴にセンサーや無線通信機能を組み込み、歩行フォームを分析する技術を開発した。これはイスラエル創業のブロックチェーンスタートアップZEROBILLBANK、日本発IoTスタートアップno new folk studioとの共創事例だ。歩行フォームの異常から糖尿病や認知症を早期発見できる仕組みを目指しているという。

 「睡眠」のテーマでは、2018年10月にウェアラブル製品Fitbitを活用したデモンストレーションを発表した。Fitbitで計測した睡眠データをOKIがスコアリングし、そのスコアに応じて、Yume Coinというポイントを付与する。Yume Coinは商品に交換可能であり、ユーザーがよい睡眠を取れるほどご褒美がもらえるというわけだ。

 OKIは製造工場、自動運転のテストコースなども持っており、スタートアップへのPoC機会を提供する準備がある。国内だけでなく、海外にも目を向けており、シリコンバレー、イスラエルなど海外とのスタートアップとも連携していく方針だ。

エイジングテック特集 目次

#1 超高齢化社会のイノベーション「エイジングテック」

#2 【SOMPO】テクノロジーで高齢化社会の課題解決に挑む

#3 僻地医療からシリコンバレーへ。日本の「本当の問題」を話そう

#4 世界中のイノベーションを持ち寄る、グローバルネットワーク「Aging2.0」

#5 【日本企業】なぜ大企業はエイジングテックに取り組むのか?

#6 スタンフォード教授が語る「睡眠テクノロジーの真実」

#7 法的書類からSNSまで。終活をサポートするCake

#8 自動運転車が食料品を配達してくれるAutoX

#9 ガソリンスタンドが家にやってくるBooster Fuels

#10 【スタートアップマップ】注目のエイジングテック一挙紹介

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