2018/12/19/ 07:00

シリコンバレーの日系CVCが陥る、10のワーストプラクティス

シリコンバレーの日系CVCが陥る、10のワーストプラクティス

今回は「シリコンバレーの日本企業が陥る、10のワーストプラクティス」(第1弾第2弾)の第3弾として「コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)」を取り上げる。CVCは、大企業がスタートアップと連携する有力な活動形態だが、様々なジレンマも抱えがちだ。今回はスタンフォード大学アジア太平洋研究所の櫛田健児氏に、シリコンバレーの日系CVCが陥りがちなワーストプラクティスについて聞いた。

CVCはスタートアップと付き合う有力な手段

―今回はワーストプラクティスのコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)編です。まずCVCの意義、歴史について教えてもらえますか。

 CVCの歴史的に始まりは1914年、DuPontが上場前のGeneral Motorsに出資した時とされています。当時から1990年までのCVCは、大企業の事業多角化への取っ掛かりとして活用されていました。

 そして1990年代以降、アメリカの大企業がオープンイノベーションを推進する中で、CVCは新たなR&Dの手法として急速に注目されるようになりました。大企業が新たな技術領域のスタートアップへ出資し、勝ちが見えたら買収するという方法です。

 CVCはプラットフォームの推進において重要な役割を果たします。たとえばIntelやMicrosoftなどは、自らの製品のエコシステムを育てるためにCVCを活用しています。Intel Capitalは、Intelのプロセッサや、Intelが提供する技術を積極的に活用するスタートアップへ投資しています。また、独自に立ち上げるCVCとはちょっと異なりますが、Appleは2008年に大手独立系VCのKleiner Perkins Caufield & Byersに出資して「iFund」という独自のファンドを立ち上げました。この目的はiPhoneやiPadの価値を高めるサービスや技術を提供するスタートアップに投資することです。2015年までの間に、このファンドを通して出資した会社のうち70社も買収しています。

―CVCはオープンイノベーションの重要な手段として活用されているのですね。

 そうですね。大企業にとって、CVCはスタートアップと付き合う有力な手段となります。この他にもCVCは様々なメリットがあります。たとえば、CVCの活動を通して新たな技術動向を把握したり、自分たちがディスラプトされる前に新たな技術・ビジネスモデルを導入できます。社内で起業家精神を醸成することにも活用できます。

 また日本企業の場合、キャッシュを持て余しており資金的な余力があります。スタートアップ投資は、大きな工場を作るとか、中堅企業を買収するといったことに比べれば安いものです。大手企業の研究開発予算に比べても安いものです。資金的なリスクが小さいので、日本の大手企業が、複数の戦略の一部としてCVCをやらない理由はないと思うのです。

―しかし、実際はCVCをうまく活用できていないケースが多いと聞きます。

 CVCはさまざまなメリットがある一方、実はジレンマだらけで、活用が非常に難しいんです。日本企業に限らず、欧米企業も含めて、多くのCVCが失敗しています。

CVCの目的が曖昧、ストラテジックリターンは測りづらいもの

―それがCVCの陥るワーストプラクティス(別図)ですね。

 そうです。CVCはファンドの主たる出資者と運営母体が基本的に一社なので、独立したVCとは運営の目的と方法が異なります。

 CVCが独立系VCと最も異なっているのは、フィナンシャルリターンだけではなく、ストラテジックリターンも重視する点です。ご存知の通り、独立系VCの場合、目的はフィナンシャルリターンを得ることです。ですから急成長するスタートアップにのみ投資すればいい。

 一方、CVCの場合、一般的にはフィナンシャルリターンだけでなく、ストラテジックリターンも得なければならないというミッションです。しかし、ストラテジックと言っても目的は様々です。M&Aのためのパイプラインなのか、R&Dのギャップを埋めるものなのか、違う分野から来るディスラプションを見張るためなのか、社内の意識改革のためなのか。それともIntelやAppleのように自分たちのビジネスエコシステムを強化するプラットフォーム戦略の一環なのか。目的は様々です。

 さらにストラテジックリターンは成果の測り方も難しくなります。フィナンシャルリターンは数値で成果を測れますが、ストラテジックリターンはどうやって成果を測り、評価するのか。これがジレンマなんです。他の事業部とは全然違う評価軸じゃないとダメなんです。これを社内でどう作るのか、多くの企業が手こずります。また、フィナンシャルリターンは求めていないと言い切るところもありますが、成功しないビジネスに投資してもストラテジックなメリットは限られます。

 要するに、目的は何ですか、という点について良い議論がされないまま作ってしまうケースが多く、作ってから修正するのは大変です。

CVCのチーム作りは簡単ではない

―目的が曖昧になりがちな上、その成果を評価しづらいと。他にどんなワーストプラクティスがありますか。

 次に陥りがちなのが、適切な投資チームを作れないことです。CVCというのは、VCのように投資をする一方で、事業部にもどんどん案件を刺す必要があります。そこに投資チーム作りのワーストプラクティスのパターンがあります。

 まずは、事業部の人がCVCの部隊で投資も行うパターンですが、事業部の人は投資のノウハウがないし、VCのコミュニティにも入れない。寄ってくるスタートアップも一流でなければ、スタートアップのファウンダーとチーム、技術、そして成長のポテンシャルを判断するノウハウがないので、本当のVCと比べて活躍できないのは当たり前です。

 一方、外部から雇ったベンチャーキャピタリストの場合、VC投資のことはわかっても事業部のことがわかっていないし、会社の中で信頼も得ていないので事業部に刺せないのです。ちなみに、後ほど話そうと思いますが、外から雇う「投資のプロ」はベンチャーキャピタルではなく、投資銀行の人だとまた別の課題が出てくることがあります。

 とにかく、ではどういうチームを作るべきなのかというと、事業部のことをわかっている人と投資のことがわかっている人を両方入れた混成チームです。ただし混成チームになると、今度は報酬制度が問題になります。サラリーマン向けの報酬制度で、外部から有能な人材を雇うのは不可能です。CVCの成功例とされているIntel、Cisco、IBMなどは、独立系VCのような報酬制度になっています。CVCのフィナンシャルリターンが高いと、チームメンバーの報酬も飛躍的に上がるのです。

 しかし、こういった成果報酬制を事業部のサラリーマンに当てはめるのは、本社の人事部が好みません。投資が大成功してサラリーマンが億万長者になったら、それまで隣で机を並べて働いていた人たちは面白くないですからね。

任期3年の「サラリーマンタイマー」

―人事の問題は他にもありますか? 

 日本企業の駐在員制度は、CVCとは絶望的に合わないんです。ウルトラマンには「ウルトラマンタイマー」という3分間の活動限界がありますよね。サラリーマン駐在員にも、3年任期の「サラリーマンタイマー」があります(笑)。シリコンバレーに赴任してもだいたい3年、長くて5年で帰らなければいけません。

 なぜ3年任期がダメかというと、本来のトップVCというのは、そもそも10年のファンドの場合、急成長スタートアップが特大ホームランとなって大きなリターンを出すのは最後の方で、それまでは赤字であることが珍しくないんです。ポートフォリオとして考えたファンドのパフォーマンスはこの特大場外ホームラン一発にかかってるんです。なので、最初の3年で立ち上げて投資をして、次の3年で多くの投資先を整理してそのほとんどを潰すか売り飛ばすということをするわけです。そして最後の3年になって、一番急成長しそうなところがとことんマイナス収益になっているとして、そこで一気に猛烈な黒字化を目指して押し進めるか大型M&AやIPOを狙うわけです。

 これを3〜5年任期の日本企業駐在員がマネージしようとすると、最初の3年は投資先のポートフォリオがマイナスのままだと自分の評価がマイナスになるのを恐れます。ましては大手メディアに勘違いされるか、あるいは悪意のある形で「◯×企業、投資ファンド赤字」などと書かれると、VCの本質がわかっていない上司や上層部から批判されます。そこで駐在員は場外ホームランではなくて短期間で黒字化できるシングルヒット、ツーベースヒット案件を狙うインセンティブが働きます。しかし、そんなに早くから黒字化できるような案件は、リスクも小さい分だけ事業インパクトも小さくなりがちです。

 そして次に来た3〜5年任期の駐在員は、受け取ったポートフォリオがマイナス収益だと、「赤字業務の早期黒字化」という間違った物差しで測られることがあるため、本当はポテンシャルがあっても今は赤字のスタートアップを早く手放す努力をします。もっとマイナスになってから一気に跳ね上がるという動きを想定していないからです。スタートアップにしてみれば、そんな判断をされるCVCから投資は受けたくないですよね。

―短い任期が制約となって、投資活動が小さくまとまってしまうわけですね。日本から駐在員を送り込む形ではなく、アメリカ法人からアメリカ人を送り込むケースはどうでしょうか?

 実はここにも落とし穴があるんです。これは日本企業だけではなく、欧州の大企業もやってしまいがちなのですが、シリコンバレーとアメリカを同じに考えてしまうのは大間違いなんです。シリコンバレーはかなり特殊な場所ですから、シリコンバレーを理解し、ネットワークのある人でなければ活用するのは難しい。

 大企業のアメリカ人というのは、日本のいわゆるステレオタイプのサラリーマンと大して変わりません。リスクが取れなくて、上司ばかり見ていて、社内政治に長けている、こういうアメリカ人もたくさんいるわけです。ましてや日本の製造業の大企業がプレゼンスを持っている中西部のオハイオ州やイリノイ州、あるいは南部のアラバマ州やミシシッピー州は同じアメリカ国内であってもシリコンバレーとは対極に位置する経済圏です。日本人からすれば、同じアメリカ国内、アメリカ人同士なのでいいだろうと思うかもしれませんが、実は全然違うタイプの人たちだったりするわけです。いわゆるアメリカ大企業のアメリカ人たちもシリコンバレーにはなかなか入り込めないし、そのほとんどは全然活用できていない。でも彼らの流暢な英語で「私はシリコンバレーのことはよくわかっている」なんて言われたら「そうなんですか」と納得せざるを得ないという、そういうケースが意外とあるんですね。

 他にも似たような勘違いとして「金融のプロにCVCの運用を任せる」というワーストプラクティスもあります。投資銀行出身者だから、スタートアップ投資ができるわけじゃありません。同じ投資でも、スタートアップ投資は案件の発掘方法、リスクの取り方が全然違います。投資銀行の人たちはきちんとスーツを着て上品な会話ができますし、大企業との付き合いにも慣れています。ですから大企業の人からすると親近感が持てて、彼らに任せたがるんですね。しかしスタートアップ投資の世界では、そういうタイプの人は向いていないことが多いんです。

フィナンシャルリターンはなぜ必要か?

―よく大企業のCVCは「ストラテジックリターンが第一で、フィナンシャルリターンは重視しない」と言います。

 たしかにCVCはストラテジックリターンがあるので、フィナンシャルリターンを最大化させる必要がありません。しかし現実的にはフィナンシャルリターンがマイナスだと活動の継続は難しくなります。なぜかというと、赤字の事業部が撤退させられるように、フィナンシャルリターンがマイナスのCVCも撤退の検討対象になるからです。特に経営者が交代したタイミングなどで投資先のポートフォリオがマイナスだと切られやすくなります。シリコンバレーを理解してない外部のコンサルタントから「赤字なので切りましょう」とアドバイスが入ることもあります。ちなみに、グローバル大手のコンサルティング企業がシリコンバレー活用戦略の成功法を持っているということは全くありません。クライアントと一緒に模索するのが精一杯なので、クライアント側もノウハウを一緒に作っていく必要があります。

 話を戻すと、CVCから撤退するのは、自社にとってだけでなく、スタートアップエコシステムにとっても良い影響はありません。忘れてはいけないのは、CVCもシリコンバレーのエコシステムの一員だということです。起業家・VC・アクセラレータ・プロフェッショナルファームと同じように、CVCもエコシステムの一部を構成しています。だからこそ、継続的な活動を続けて、エコシステムを支えなければいけません。

 残念ながら、CVCは「バブルの最後の方にやってきて、バブルが弾けて業績が悪化したら真っ先にいなくなる」と言われています。スタートアップ側からすると、資金繰りが一番苦しいシード期には投資してくれなくて、ある程度成長したミドル、レイターの時期に「うちのお金をどうぞ」と偉そうに言ってくる。必要な時に助けてくれなくて必要がないときにやってくる。これはあんまりいい友達じゃないですよね。シリコンバレーのメディアでも、CVCのお金は「Dumb Money(頭の悪いお金)」と揶揄されたりしています。

 スタートアップからしてみれば、コミットメントが遅い、成長後じゃないと投資してくれない。担当者はコロコロ代わって、事業部にも上手につなげてくれない。CVCってこんなものだよね、という評判になっていることは認識しておくべきです。

―手厳しい評価ですね。

 大企業の多くは、自分たちがスタートアップからどう見られているかがわかっていないのです。それだけでなく、スタートアップが何を求めているのかもわかっていません。

 多くの大企業は、スタートアップはお金に困っているだろうと考えて「お金を提供できます」と言います。しかし実際はシリーズB、Cくらいのスタートアップになると、それほどお金を必要としていません。特に事業会社から資金調達しようと思っていません。スタートアップが事業会社に求めているのは、グローバルの販売チャネルであったり、量産化の技術であったりするわけです。スタートアップが本当に欲しいものを聞き、それを提供する姿勢が必要なのです。

「とりあえずアクセラレータ」は危険

―スタートアップに投資する際のワーストプラクティスはありますか。

 社内で大量の承認が必要で、動きが遅くなることです。スタートアップはまだステージが早ければ早いほど、磨き込まれた資料を準備できていません。まだ資料や大企業スタイルの事業計画の完成度が低いんですね。そういった資料を大企業内で回すと、ツッコミどころがたくさん出てきて、なかなか承認が取れません。スタートアップからすると、ビジョンやプロダクトにリソースを割いているのであって、見てほしいのは資料の完成度じゃありません。

 大企業が大量の承認をするロジックはリスクを減らすことです。しかし、実際は個々の社員に降りかかる責任を減らしているだけで、案件がうまくいかないリスクを逆に増やしています。どんどんツッコまれて遅くなり、ダメになってしまうのです。

 この解決策としてはCFOやCTOなどのライン一本でシンプルに決裁することです。こういったエグゼグティブたちは大きな予算を常に見ているので、それに比べてスタートアップ投資の額は小さく見えます。何百億、何千億円単位のプロジェクトを回している人からすれば、数千万円、数億円程度の投資はスピーディーに話が進むでしょう。

 またCVCが出資する場合、独占契約などの条件をつけようとするケースがあるんですが、これは嫌われます。スタートアップから嫌われますし、共同投資先のVCからも嫌われます。そんな条件でも寄って来るスタートアップは、よっぽど他に行き場がなくて困っている会社じゃないでしょうか。スタートアップエコシステムの一員として、変な条件をつけた出資というのは控えましょう。

―アクセラレータプログラムを運営するCVCも多くあります。

 アクセラレータというのは、本当は来てほしいスタートアップほど来てくれないものです。大企業からすれば「われわれは世界的な大企業だからアクセラレータをすればスタートアップも来るはずだ」と考えがちです。しかし一般的にCVCの評判が高くない中、なぜアクセラレータにスタートアップが来るのでしょうか? 優秀なスタートアップはY Combinatorではなく、大企業のアクセラレータを選びますか? そんなはずがありませんよね。

 実際のところ、来たスタートアップはプログラムに魅力を感じたというより、他に資金調達の選択肢がない可能性が高い。逆説的ですが、来てくれないスタートアップにこそ投資するべきなんです。他に資金調達の選択肢がたくさんあるスタートアップの方がVCから優秀と見なされているわけで、急成長して競争相手を淘汰していく可能性が高いわけですから。

 その点、ホンダはワーストプラクティスを回避して、出資を前提としないアクセラレータを運営していますね。さらにスタートアップが必要とする自動車についての技術、ノウハウを無償で提供しています。これは特定領域のディープなナレッジであり、Y Combinatorなども提供できないものです。それはスタートアップにとって魅力的でしょう。特に、ホンダは独占契約などを結ぶわけでもないので。

事業部連携で起こりがちなジレンマ

―CVCは事業部との連携も問題になりがちです。

 事業部を動かすには、経営トップのサポートが必要不可欠です。なぜなら事業部のミッションは、いかに既存事業においてローコストでハイクオリティを出すか。彼らの評価軸もそこなんです。ですから彼らからすると、スタートアップのPoC(実証実験)を依頼されても困るんですね。言い方は悪いですが、“アマチュアの実験”に付き合っている時間はない。事業部にしてみればPoCを無視してもマイナス評価にはなりません。人事上、機会損失については評価の対象にならないからです。しかしPoCを引き受けて失敗したらマイナス評価になってしまう。「PoCに使ったリソースを既存事業に回してたら、もっと売上が上がったはずだ」となってしまう。そんな構造なので、事業部はスタートアップ案件を受け取っても全く動かないわけです。

 じゃあ最初から事業部の了承を取ってから投資判断をすればいいじゃないか、と思われる方もいるかもしれませんが、実はこれこそワーストプラクティスなんです。事業部のサポートを得るには時間がかかるので、長くて2週間ほどで行わなくてはいけない投資決定事項を、平気で「4ヶ月待ってくれ」となるのです。その間に案件は消えます。また、事業部のサポートを得る場合、そのほとんどは、自ら持っていない細かい周辺技術の獲得に限られます。それはそれでいいのですが、ちょっとでも本業を脅かしたり、業界の常識を打ち破ったり、成功すれば革新的な技術を生み出すスタートアップへの投資は概ね却下されます。なので事業部のみが決める投資判断も、シリコンバレーの破壊的イノベーションのエコシステムを活用するという観点では全く物足りません。

 さらに、協業案件が進んでも、優秀な事業部というのは、サプライヤーに対してコストを下げるようにプレッシャーをガンガンかけるものです。これは投資先のスタートアップがサプライヤーになった場合、大変なことになります。事業部がスタートアップに対して強烈なコストプレッシャーをかけるんです。これはCVCからすれば、大きなジレンマです。スタートアップの売上を伸ばすためには、できるだけ高い価格で売りたい。事業部からすれば、できるだけ価格を低く抑えたい。これが真正面からぶち当たってしまうからです。こういう時はトップが理解して介入しないと解決しません。コストを下げれば事業部の利益が上がることは理解しつつも、「いや、このディールはこれぐらいの価格でいいよ」とスタートアップの価格を守ってあげる。そういうトップのサポートが必要なんです。

 もう一つ、事業部との連携で起こりがちなジレンマは、投資先のスタートアップの競合と組むケースです。たとえばUberよりも早く事業を立ち上げて展開したSidecarという会社に投資していた場合を考えてみましょう。Sidecarへ投資した後に思いっきりUberが伸びました。でもうちの会社はSidecarに出資しているからSidecarと組まなければいけない、ましてやそこをあの手この手でSidecarを潰そうとしているUberとは組めませんと。でも結果的には負け組に投資してしまったら勝ち組と組めなくなるというのは、数多くのスタートアップが猛烈な競争を通して価値を生むシリコンバレーの価値を活用しているとは思えません。

ワーストプラクティスを避けるために

―ここまで多くのワーストプラクティスが挙がりましたが、これらを避けるためにどうすればいいでしょうか?

 そもそも私は「ベストプラクティス」というものはないと思っています。みんながこれさえすれば成功する、という戦略はありません。各企業が持っている強み、アセット、社内文化、技術などはそれぞれ異なるので、一社のベストは他社のベストとは全く限りません。ただし、ワーストプラクティスは「これじゃあうまくいきにくい」という共通課題なので、それらをなるべく避けるに越したことはありません。避け方はいろいろあります。

 まずは明確な目的を定めるべきです。単なるお題目ではなくて本当の目的を決めることです。そしてどうやってワーストプラクティスを避け、どう仕組みにするのか、これも明確にしておくべきです。ただし、最初に設定した目的は後から変えられるようにするべきです。実際に行動する中で様々な学びがあるはずですから、その都度、軌道修正していくのがいいと思います。

 次に、自分たちがスタートアップに提供できるものを棚卸ししておくべきです。そしてスタートアップが本当に欲しがるものを提供しなくてはいけない。アセットやノウハウなどを自分たちで洗い出した後、スタートアップに何が欲しいのかを聞いて回るべきでしょう。そして信頼できる外部の意見も重要です。

―人事組織面のワーストプラクティスにはどんな解決策がありますか。

 最重要なのは、CEOやCFOなど経営陣がコミットすることです。たとえ経営陣が代わっても、CVCを継続するというコミットを何らかの形で示すべきです。そうしないと、スタートアップエコシステムの人たちから「今はCVCをしているけどすぐにやめちゃうんだろうな」と見られてしまいます。

 またCVCは横断的に事業を見ているCFOやCTOの下に置くべきだと思います。もしCVCを研究開発部門や事業部の下に置くと、既存の研究開発や事業をディスラプトする案件には手を出しづらくなります。それを避ける仕組みにするべきです。

 チーム組成について言うと、CVCの役割が本当にこなせるという人は少ないと思います。1人で事業部にも刺せるし、VCとしての投資も一通りできるという人はほぼいないので、複数人での役割分担が必要です。その場合、事業部に刺せる人は社内から見つけ、VCとして投資ができる人は外部から採用することが多いでしょう。大手独立系VCの出身者が採用できればいいですが、採用できそうな場合でもなぜCVCに来るのかを考える必要があるかもしれません。大手独立系VCは競争の激しい世界ですから、ワークライフバランスを考えて働きたいと思った人なのか、それとも実力がなく独立系VCから放り出されてしまった人なのか。そしてVC業界について詳しい、村社会の中の人なのか? なぜわざわざ日系CVCに来るのかを考えなくてはいけませんね。

―事業部との連携はどう進めていくのがいいですか?

 先ほどお話ししたようにトップのコミットが大事ですが、あとはCVCと事業部の連携を仕組み化することです。大企業の事業計画は1年くらい前に決まっていることも多いでしょう。ですから、定期的に各事業部とミーティングして、その決まっている計画や困っていることを聞くと良いでしょう。事業部の困っていることを理解して、それを解決するスタートアップとも連携していくという、事業部を味方につけてくれるような案件もあると良いかもしれません。最初から既存事業をディスラプトしそうな案件だったら、警戒されて拒絶反応が見込めますから。ただ、半歩先のものだけに絞ってももったいないし、実際に業界がディスラプトされることもあるので、両方見ることが大事だと思います。

過去の失敗事例から学べ

―最後に、日本のCVCにメッセージをお願いします。

 ほとんどの大企業は過去にCVCを作ったことがあり、失敗とみなしてやめた経験があります。CVCをするのであれば、過去の当事者たちに聞いて学び、同時に外の意見も聞いて学ぶことがたくさんあると思います。日本企業は現場の改善は上手なんですが、失敗から教訓を得るのはあまり得意じゃないんです。私のワーストプラクティスは、うまくいかなかった人たちの話を聞くことによって成り立っています。うまくいった人たちの話を聞くよりもうまくいかなかった人たちの話を聞いた方が教訓が多いわけです。うまくいった人だけに聞いても、うまくいかなかった人の話と照らし合わせないと成功要因がよくわからないことも多いですからね。

 あとはIntelやAppleがやったようなエコシステムを作るようなCVC活動、自分のプラットフォームを使ってもらうような活動、これはポテンシャルがあると思うんですね。ぜひやってほしいんです。日本企業は技術をリードするのは上手ですが、フォロワーを作るのが苦手です。ガラケー、スイカのような電子マネーや水素エンジンもそうかもしれません。日本は少子高齢化と過疎化の課題先進国なので、これから課題に向き合うサービスがたくさん出てくはずです。シリコンバレーのスタートアップや大企業もデータを取りに来始めています。その時にプラットフォームを使うスタートアップにどんどん投資をして、プラットフォームの重要性を高めながら、数多くのサービスを可能としていく、こういう投資をもっとしてほしいですね。

 CVCは長期的なタイムスパンで物事を見られる点でポテンシャルがあります。CVCというと急成長するスタートアップに投資するので、短期的なものだと見られがちですが、実はそうじゃありません。CVCは事業部のように四半期ごとに業績を測られません。CVCという仕組みを持つことで持続的にスタートアップエコシステムに参画でき、ポテンシャルディスラプターと付き合うことができます。ぜひCVCを長期的なイノベーションツールとして活用してほしいと思います。

1978年生まれ、東京育ち。父親が日本人で母親がアメリカ人の日米ハーフ。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所Research Scholar、「Stanford Silicon Valley - New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、『インターナショナルスクールの世界(入門改訂版)』(アマゾンキンドル電子書籍)がある。

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