2018/5/11/ 09:46

日立ソリューションズ流「シリコンバレーで継続して成果を出し続ける仕組み」(後編)

Hitachi Solutions America
Director of Business Development and Alliance 内田 知宏
日立ソリューションズ流「シリコンバレーで継続して成果を出し続ける仕組み」(後編)

2007年よりシリコンバレーの有力なスタートアップと協業している日立ソリューションズ。前編に続き、「成果を出し続ける仕組み」についてHitachi Solutions Americaの内田知宏氏に聞いた。

投資は一切せず、パートナー契約のみ結ぶ

―有望なスタートアップであれば、他の日本企業からもパートナー契約を打診されているはずです。御社が選ばれるために何をしていますか。スタートアップに投資もしていますか。

 CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)はやっていないので、投資の話は一切できないですね。私の印象ですが、スタートアップ側も日本企業からの投資は期待していないと思います。

 なぜ当社が選ばれるのかは一概には言えませんが、一つ言えることは、シリコンバレーは人間の信頼関係で成り立っているということです。日本でもそうですが、全く知らないところから、いきなり「組みましょう」と言われても真剣には考えてもらえません。スタートアップに自社を売り込むのではなく、彼らの立場に立って考えた時に、メリットになるストーリーを伝え、まずは日本市場に目を向けてもらうところから入ります。そして「そんなチャンスがあるなら真剣に考えたい」と思ってもらう。どちらかと言うと、泥臭い人間同士の信頼関係を築くことが大切なので、あえてガツガツいかない営業を心がけています。

 ある程度の信頼関係を築いた後に意識していることは、スタートアップの立場や考え方を日本側が理解するように教育するということです。スタートアップはVCから「急激に事業をスケールさせて企業価値を高め、エグジットする」ことを徹底的に言われます。スタートアップの立場で考えた優先順位づけと、日本企業の優先順位はどうしても異なります。両者はバックグラウンドが違うので、そこは理解し合えるように心がけています。

 あとはスタートアップが日立ソリューションズと組んだ時に、できるだけいいフィードバックができるように意識しています。具体的に言うと、たとえば日本で紹介したけど、リソースが割り当てられなくて、話が3ヶ月先になりそうという時、それをそのまま伝えてもスタートアップにとって何の価値もありません。そういう時は「日本でこうやってお客様に紹介して、マーケティングをやってみたけど、この点が合わないようだ。事業として伸ばすならこの機能を拡充するといいと思う」というような、彼らにとって役立つフィードバックを返すように徹底しています。細かいことを含めて、基本的な事項を一個一個積み重ねていくしかありません。

年110社に接触、日本側へ52社受け渡し、30社が事業検討

―年に4件の契約実績をつくるために、何件のスタートアップとコンタクトを取り、日本側に何件を受け渡しているのでしょうか。

 2017年度の実績で言うと、実際に会ったスタートアップは100社前後で、そのうち日本に紹介したものが52社です。スタートアップにやみくもに会うことはせず、コンタクトを取る前にレファレンスやネットリサーチなどを行い、フィルタリングをかけてから会うようにしています。

 さらに日本側の事業部門がキャッチしてくれて、人をアサインして、事業として成り立つかどうかを評価、または検討するところまで行ったのが30社です。なかには事業化まで1年以上かかってしまうものもあり、そういう案件は次年度に持ち越されてしまいますが、30社のうちその年に4件が立ち上がってくるような仕組みを作っています。

(出典:日立ソリューションズ社 社内資料)

―最初にコンタクトしてから契約締結まで、平均でどのくらいの期間がかかっていますか。

 最初にコンタクトを取ってから契約までかかる時間は平均9ヶ月くらいですね。早いものは早いです。たとえば、2017年7月に販売代理店契約を締結したAutomation Anywhere社は、RPA(Robotic Process Automation)が日本でブームだったので、短期間で立ち上げようと決めて動きました。Automation Anywhere社に日本の事業部門長と会いに行ったのが、17年2月だったので、5ヶ月で契約締結までこぎつけました。

 最近の傾向として、スタートアップ側がビジネスボリュームのコミットを求めるようになり、以前より契約交渉に時間がかかるようになりました。その背景としては、スタートアップはVCから投資を受けていますが、そのお金はもともと日本進出向けのものではありません。ですから、日本進出に投資をするのであれば、彼らはVCや取締役会を納得させなければなりません。すると、VCや取締役会からは「日本に行くならコミットを求めるように」と言われることが多いようです。

 また、パートナープログラムがすでに明確になっていて、その契約条件が厳しい会社もあります。そういうケースでは「あなたたちの条件で、日本でビジネスをするとシェアはこれくらいしか取れない。条件を緩和してくれたら我々はこれだけシェアを広げられるが、どちらがいいか」と交渉を続けて、日本市場向けのパートナープログラムを新たに作ってもらうこともあります。

―売上のコミットを求められた場合はコミットするのですか。

 基本はしません。コミットを求められたら、逆に「日本市場参入のために必要なローカライズや、弊社事業に組み込むためのAPI準備、サービスレベルも含めてあなたたちがコミットしてくれるなら、うちも売上をコミットするよ」と話します。コミットのコミット返しですね。そう伝えると、スタートアップ側もコミットが難しく、「日立ソリューションズがローカライズをやってくれるなら売上コミットなしでいいよ」と言ってくれます。でも、それは彼らの製品に対して役立つフィードバックでもあるので、信頼関係が崩れることはありません。

独占契約は結ばず、信頼で続く関係

―売上のコミットはしない場合、スタートアップとの独占契約は結ばないのですか?

 独占契約をしようと誘われても、お断りしています。日立ソリューションズとしては全力でスタートアップのソリューションを使って、我々のサービスに組み込んで売る。再販も全力でやります。そして、日立ソリューションズで成功して、そのまま他のパートナーは見つけないよと言ってくれればいい。実際、独占契約をしていなくても、独占契約しているような状態となるケースが多いのです。

 様々な理由で実績を出せなかった場合、独占契約を結んでしまっていると、スタートアップはそこで日本市場失敗ということになってしまいます。失敗を活かし、戦略をピボットすることもできなくするのは、スタートアップの立場から考えるとかわいそうです。他のパートナーと契約してくれていても全然構わない。スタートアップの立場で考えたら、そのほうがいいと考えています。

―御社がすごくいいスタートアップとパートナーシップを結んで、日本で売上が上がったら、他の日本企業も契約を結んでしまうケースはないのですか。

 それはあります。それによって日立ソリューションズの売上が伸び悩んでしまうこともありますが、それは仕方がありません。伸びたから、それは言えるわけで、伸びなかったら独占契約は足かせになります。

 スタートアップと組む時は今までやっていなかったことや、新しいソリューションに取り組むことが多いのです。不確定なところで、お互いコミットや独占契約のような固い関係を約束してしまうと、時間もかかりますし後々で大変なので、日立ソリューションズはもっとライトに、上手く行ったら継続してハンドシェイクしていけばいいよね、というスタンスです。特にアメリカのスタートアップは一度信頼関係を築くと裏切りません。信頼関係でやっていけばよくて、人と人の繋がりを大切にしています。

―日本市場向けのローカライズはどれくらい必要ですか?

 基本的にローカライズはそんなに必要がありません。ただ、コア技術は有効でも、利用用途が違うため既存のままでは日本では通用しないサービスというものがあります。その場合、日本向けにビジネスモデルを「化かす」というローカライズは行います。

―契約は日本で行うのですか?

 契約は日本本社とスタートアップが直接締結し、私たちアメリカ側は商流には入りません。日立ソリューションズ向けのライセンスモデルを用意してもらい、我々のサービスに組み込んで販売しています。スタートアップ側がユーザーからお金を直接徴収して、我々にキックバックを返すことを希望するケースもありますが、日本のユーザーがドル建てでの決済を好まない傾向があり、そういうスタートアップはあまり売れていません。

―円建て決済ということは、売上には為替の問題も出てくると思いますが、そういった点はどうしているのですか?

 為替の問題は、難しいです。為替変動リスクは日立ソリューションズがとっています。今はドル安なので追い風ですが、一年単位で大きく変わってしまいます。社内で想定為替を立て、それを前提に予算を立てています。

スタートアップと信頼関係をどう構築し、いかに日本側に引き継ぐか

―シリコンバレーでは信頼関係が大切だということですが、その関係性はどうやって築いているのですか。

 だいたい最初は打ち合わせベースで、自分を認めてもらえるような準備をして、この人とやっていると有益な情報をもらえそうだとか、信頼できそうだというようなことを何回か重ねていきます。そして、ある程度信頼関係ができたら、お昼を食べに行ったり、飲みに行ったりしますが、日本ほど“飲みニケーション”はありません。

 どちらかというと、普段の仕事で対話をしている中でのパフォーマンスが重視されます。あとは、全然関係がないところでも、彼らにとって興味がありそうな情報を携帯電話にテキストで送ったりもしています。  最初のアポ取りはメールで行いますが、打ち合わせが進んでいくと、コミュニケーションはほぼテキストやSNSのチャットツールに移行します。そうなると楽ですし、認めてもらった感があります。

―日本本社側とスタートアップの関係構築も重要ですよね。

 事業開始まではアメリカ側が主導でやりますが、日本での事業開始後は日本本社の事業部門がスタートアップと関係を築いてもらうようにしています。アメリカ側とスタートアップの信頼関係が深くなりすぎると、日本側への引き継ぎが大変になるので、日本の担当者にアメリカに来てもらい、スタートアップにたくさん会わせますし、スタートアップにも日本に行ってもらいます。ビジネスの進捗確認や、顧客先への訪問に加えて、日本側の担当者と食事に行って、両者が関係を築く場をつくっています。

 事業開始後に、私たちアメリカ側がいきなり手を引くとスタートアップが戸惑いますし、しかし手を引かないと日本本社の担当者とスタートアップが関係を築く際に、こちらが阻害要因になってしまうのでそれもよくありません。そこが、今一番苦労しているところです。

駐在員を「糸の切れた凧」にしないために

―最後に、シリコンバレーで事業開発を行おうとしている日本企業へのアドバイスをお願いします。

 日本の仕事のやり方とシリコンバレーのやり方は違うこと、一番は相手をきちんと理解すること。日本企業でこれからシリコンバレーに入ろうとする会社であれば、まずは領域を絞ってターゲットを明確にすることです。

 それと、シリコンバレーに人を送り出した時に、自由に活動させるのも大切ですが、日本側ときちんと連携が取れているのかということをウォッチしておく必要もあります。たとえば駐在員と毎週打ち合わせをして、何回スタートアップと打ち合わせをしたか、日本側に紹介して何回フィードバックが返ってきたかなど、基本的なものでいいのでKPIを設定して、伸びているのか、減っているのかを数値でモニタリングすることが大事だと思います。

 駐在員に一年間自由にやらせるとか、ゴールだけ決まっていてその途中のプロセスをすべて任せてしまうケースも多いようですが、そうすると糸が切れた凧のようになってしまいます。そういうことがないように、日本側が駐在員に任せるところは任せて、でも連携を取るところはきちんと取っておくことが大切です。

内田 知宏
Hitachi Solutions America
Director of Business Development and Alliance
2001年に日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社(現:株式会社日立ソリューションズ)にSE職で入社。その後プリセールス、プロセス改善コンサルタント職を経て、 英国子会社在籍時の2010年に欧州通信事業者と共同での新規事業立ち上げを主導。日本帰国後、2014年にも新規の国内事業を立ち上げ、その後該当事業の推進役として新規顧客獲得に貢献。2016年1月よりシリコンバレーに駐在し、スタートアップとのパートナーシップによる事業拡大に従事。

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