2017/10/14/ 07:37

【続編】シリコンバレーの日本企業が陥る 、10のワーストプラクティス

スタンフォード大学アジア太平洋研究所
研究員 櫛田 健児
【続編】シリコンバレーの日本企業が陥る 、10のワーストプラクティス

日本企業がシリコンバレーを有効活用するためには、陥りがちな失敗パターンを知っておかなければならない。前回大きな反響のあった「シリコンバレーの日本企業が陥る、10のワーストプラクティス」、その続きをスタンフォード大学の櫛田健児氏に聞いた。

日本企業が陥る課題は共通している

 前回の記事は大きな反響がありました。一番多かったのは「まさにうちのことだ」という意見。やはり、日本企業は同じ問題を抱えているんでしょう。

 さらに面白いことに「このワーストプラクティスは他の国でも当てはまる。シリコンバレーに限った話ではない」という意見も多くいただきました。きっと日本企業の海外事業開発における共通課題なのでしょうね。

 前回のインタビューで主要なワーストプラクティスについてはお話ししたつもりですが、実はまだまだワーストプラクティスはあります。今回はワーストプラクティスの続きについてお話しします。

1、日本流のアピール方法から抜け出せない

 シリコンバレーで仲間づくりをするためには、自社をアピールしなくてはいけません。でも日本企業の95%はうまくアピールができていません。日本企業が自社をアピールするためにどうするかというと、たいていはパワーポイントを印刷した資料を配って、みんなで読み合わせるという方法です。しかし、これはシリコンバレーでは多くの人に刺さる方法とは言えません。

 ちなみに、私はスタンフォード大学とUCバークレーで「情報の伝え方」という、教員のためのトレーニングを受けています。そこで習ったのは、人の最適な学び方には複数のパターンがあるということです。目の前の文章を自分で読むのがもっとも効率よく情報が頭に入る人、人に読み上げてもらうことで聴覚を通して頭に入れるのがベストな人、そして図や絵などコンセプトなどをビジュアルで理解するのがもっとも最適な人がいるわけです。そしてそれぞれの人は、自分に合っていない方法で情報をインプットされるのは多少なりとも苦になり、全てのタイプの人を同時に最適化するのは無理なのです。そこで手法を混ぜたり、複数の取り組みをしなくてはいけないのですが、日本流の「手元の分厚い資料読み上げ式」のプレゼンテーションは、残念ながら現地では刺さらないことが多いんです。

 スライドの構成にも工夫の余地があります。ビジネススクールはもとより、シリコンバレーでは投資家に対するピッチのトレーニングなどにおいて、スライドの決まった型を教えられます。良いスライドというのは、主題から切り込み、各ページのポイントは箇条書きで3つほどに絞り込まれています。

 一方、日本企業のスライドは、自社の全体像の説明を延々と伝えるパターンです。「わが社は創設何年で、こういう部門がいろいろあって、売上規模はこれぐらいで・・・」という構成ですね。スライドにはものすごい数のハコとおびただしい数の矢印が複雑に絡み合っていることが多く、シリコンバレーの感覚からすると、メインポイントがパッとわかりません。シリコンバレー側としては、主題がよく分からない複雑なスライドを見せられても、「要するに何なんだ?」となります。「あなたの会社は何が強みなんですか。どこに課題があるんですか。何をしたいんですか」と思っているのです。

 スタートアップの場合、全身全霊を傾けた渾身のアイデアを、わずか数分でプレゼンするというスタイルを身につけています。彼らは数々の試練を突破して資金調達をして、必死でビジネスを拡大しようとしているので、なおさら相手にもポイントを押さえて手短に話してほしいんです。これは日本の風習の良し悪しの話はなく、文化の違いの話です。ただ、シリコンバレーで仲間を作ろうとする場合は、現地の文化に対応した方が成功確率は高いでしょう。

 ちなみに、駐在員がシリコンバレーの文化を理解して現地用に資料を作り変えても、本社がそれを許さない場合もあります。本社としては公式資料以外は外部に出せないと。それで、現地の駐在員が内緒で資料を作って使っていたりしますね。でも駐在員が変わると、その資料は引き継がれず、また一からやり直しになってしまいます。

2、社内のオセロゲームができない

 続いて人事組織の問題です。まず「社内のオセロゲームができない」というワーストプラクティス。よくあるのは、社長が突然シリコンバレーにものすごく関心を持ち、現場の担当者も非常に前向きになる。つまり、トップと現場がシリコンバレーやりましょうとなる。そして駐在所を作る準備から始まって、さあ動きましょうということになってから、それから1年半くらいかかったりします。

 なぜかというと、シリコンバレーに来ていなかったり信じていない中間管理職がいて、社内のいろんな力学や妥協で、話が進まないからなんですね。シリコンバレーに前向きなトップと現場ではさんでも、中間層がひっくり返ってくれない。これが社内のオセロゲームができてない、という話です。

 もちろん動きが速ければ良いというものでもなく、十分な下調べもなしに、中途半端なコミットメントで駐在所の設立や大型投資を決めてしまうのも、ワーストプラクティスの地雷を踏むことになりかねません。しかし、経営トップとシリコンバレーの責任者になる当事者が動きを決めた後、非常に長いあいだ「中間管理職があらゆるポイントで待ったをかける」状況は、それらをひっくり返すオセロゲームができていないということです。これは次のワーストプラクティスの話にもつながります。

3、社内政治によりシリコンバレーへの取り組みが180度変わる

 大企業は社内の政治力学によって、一転してシリコンバレーへの風当たりが真反対になることがあります。

 一般的には、社内にはシリコンバレー崇拝型の人たちと拒絶型の人たち、両方が存在しています。部署のトップがシリコンバレー崇拝型の人から拒絶型の人に代わると、現地では大変です。シリコンバレー現地で「行けそうだ」「裁量与えられて任されている」と進めていた案件が、急にストップがかかってしまう。当然、現地は混乱し、シリコンバレーでの会社の評判も下がってしまう。

 これを避けるには、シリコンバレーオフィスの人は、社内の政治的な勢力図を把握しておくこと。そして、その動きを注視していなければいけません。本社の動きが見えなくならないよう、本社とのパイプを強くしておくことです。具体的な手法もいろいろあるので、またの機会に紹介したいと思います。

4、現地採用の経営陣をうまく評価できない

 次に、シリコンバレーオフィスのトップに現地の人を雇うケース。さてシリコンバレーのトップをどう採用し、評価するかとなるのですが、そんな採用・評価基準は社内にないし、できる人もいないわけです。日本企業の人事部というのは、グローバルで見てもかなり強い。日本企業は終身雇用前提で、人事部は人をどこに置くか考える、企業の強さの源泉となる部署だからです。しかし、日本の人事部は、海外経験がなかったり、社内の方ばかり見ていたりするので、社外のシリコンバレーのトップを採用・評価するのはとても難しい。

 給与も問題で、「人事部規定で正社員採用する場合はこれしか払えない」ということもある。しかし、その金額はシリコンバレーのエンジニアの給与の3分の1程度で、とてもいい人は採れないとなってしまう。じゃあ給与を上げれば採れるのかというと、自動的にそうなるわけでもない。いい人を採るために現地水準の給与は必要ですが、いい人が採れるとは限りません。結局、高給を出してあまり良くない人を採ってしまったというケースはずいぶんあります。よくあるワーストプラクティスとしては、採用候補者の売り文句を鵜呑みにして「私はスタープレイヤーだ」という人を採ってしまう。でも、実は現地で見れば「誰その人?」という低評価の人を高給で雇ってしまっているんです。

 さらに日本企業の場合、良くない人を採ってしまったとしても、なかなかすぐに首を切れないこともある。切ればいいのに、なかなか切れない。雇った人のメンツが潰れるとか、あれは「失敗」だったので決断した人の評価が下がるという心配などがあったり。場合によっては、なぜかそこだけ日本社会のロジックで「雇ったからには面倒を見る」という風習が動いてしまうこともある。でもその結果、無能な現地トップを解雇できず、高給で居座られたまま、重大な機会損失が次々に起こるというのはワーストプラクティスです。

5、本社の人事制度を無理にシリコンバレーに当てはめる

 日本企業の人事制度は、本質的にシリコンバレーを活用できてないようになっています。日本の組織は人事ローテーションをして、そこでのパフォーマンスを評価して、昇進していく人は昇進していく。そういう方式ですが、人がグルグルと出入りして入れ替わるシリコンバレーでは、そのまま日本の人事制度持ってきても意味がありません。また、人事部の人たちがグローバル化されてないので、シリコンバレーに合った人事制度にすることが難しい。

 また、人事部は評価の際に、客観的に数量的に成果を測りたがりますが、何が成果として意味のあるのかを考えるのは難しい。意味のない数値、勝負どころではない数値を測って指標にしてしまったら、無意味などころか逆効果になります。人事部としては評価しなければいけないのだけど、何を測ったらいいかわからないし、測る定規も何を使ったらいいかわからない。現地オフィス側に聞くのも、自分たちに都合の良いものを出されそうで怖い。そんな状況なのだと思います。

 経営側も、行き過ぎた先入観で「シリコンバレーは実力主義、成果主義だから、すぐに成果を上げてこい」と期待しているケースがあります。しかし、日本の人事制度のまま、このような期待をされると非常に厳しい。社内のさまざまなところにシリコンバレーでの取り組みの味方を作り、中間管理職のオセロゲームをしながら、自社が得意でないところを、競争が厳しくて世界選抜が集まっている異文化のアウェー環境で、付き合ったこともないシリコンバレー企業と一緒に、すぐに成果を出すのは大変なことです。失敗が多くなるのも当たり前で、この期待と評価のさじ加減は難しい。

 最近、人事部をシリコンバレーに送って学ばせようという日本企業が現れたことには大変喜んでいます。でもまだほとんどいません。既存の人事制度をそのままシリコンバレーで活動をしている社員に当てはめるのはワーストプラクティスです。

6、「中小企業」と「スタートアップ」の違いを理解していない

 大企業は「中小企業」と「スタートアップ」の違いを分かってないことがあります。「スタートアップ」と「中小企業」は全くの別物です。スタートアップを中小企業と同じように扱ったら、仕事はうまくいきません。ざっくり言ってしまうと、中小企業は生き残ることがメインなので、成長はゆるやかでもいい。すぐに劇的な成長をしないと終わるという感じではなく、黒字になっていればやっていけます。それはそれでスタートアップよりも余裕があるので、色々できることがありますが、スタートアップとは全く別物です。

 一方、スタートアップはとにかく急成長しなくてはいけません。しばらくは大赤字でも大丈夫で、急展開して一気に莫大な富を生み出して、将来黒字化しそうであれば良いのです。ただ、スタートアップは急成長して次の投資に繋げないと会社が終わってしまうので、「崖から飛び降りて、地面に当たる前に飛行機を作って飛び立たねばならない」という感覚を持っていると、シリコンバレーでは頻繁に耳にします。ベンチャーキャピタルは本当に急成長しそうなスタートアップにしか投資しませんから、猛烈なプレッシャーがかかるのです。多少黒字になっていても、成長の度合いが遅すぎると、ベンチャーキャピタルの方が見切りをつけて売り飛ばしたり、経営層を入れ替えて急成長を狙い、それがうまくいかなかったらあっさり潰すこともあるわけです。

 また、スタートアップとの付き合い方としては、たとえるならばシリコンバレーは「スーパー」ではなく「市場(いちば)」なんですよね。スーパーでは売っている商品は、提示されている金額分のお金を出せば買うことができます。価格が表示されていて棚に置いてあるのに全く売ってくれないということは起きません。ですが、たとえばアジアの市場の場合、値段も載っていなくて、相手に気に入られなかったら、商品を売ってくれないなんてこともありますよね。スタートアップもそういう感覚と近いところがあります。大企業が業務提携とか大きな取引をしようと思っても、スタートアップ側が断ることがあるんです。大企業側は「お金を出せば買えるだろう」と思いがちですが、お金だけでなくそれに伴う行動も非常に重要です。その大企業側の文化や対応が合わなければ、スタートアップ側は断ることもあるわけです。

 そしてトップのベンチャーキャピタルがもっとも期待しているスタートアップは、そもそも棚に置いていないわけです。日本の大企業が「うちは大企業でお金を持っているので、ここら辺のスタートアップは我々と組めるのを光栄だと思っているはずだ。だから、ちょっと来てもらって話を聞いてあげよう」という感覚で接するとダメなんですよね。しかもスタートアップは完成品ではなく、その成長のポテンシャルで評価されているので、中小企業のサプライヤーという感覚で接すると、試作品やプロダクトなどはもちろん未熟なことが多いわけです。しかし、結局そういう未熟なスタートアップが業界ごとディスラプトする可能性があるのがシリコンバレーなのです。

7、M&A後の戦略がない

 シリコンバレーにやってくる日本企業の多くは、「M&Aも視野に入れています」と言います。事業会社を買った経験のある日本企業も結構あります。ただ、スタートアップを買った経験がないというケースは多い。

 よくあるワーストプラクティスの一つは、スタートアップを買収した後、放置してしまう。下手にマネジメントするとうまくいかないかもしれないから、放置しておこうと考えるわけです。ガンガン儲かっている事業会社ならば、放置しておくのもありかもしれませんが、スタートアップというのはだいたい赤字で、これからまだ伸びなければいけません。でも大企業は「戦略的なストラテジーを補うために買い、これから伸ばすためのリソースをスタートアップに与える」ということをあまり考えていないケースが多いわけですね。大企業が投資リターンだけを考えているのだったら、ポートフォリオ投資、VCみたいな投資をすればいいだけの話で、わざわざM&Aする必要がありません。

 スタートアップは将来伸びるという可能性を評価されて買われるわけですが、大企業の社内に入れると、いち弱小グループにしかなりません。メインの事業というのは、ものすごくリソースがあるし、優秀な人たちもたくさんいる。スタートアップは人も少ないし、リソースもない。そのため「こんな小っちゃいグループに、なんでわざわざ経営資源と財務的資源をたくさんあげるんですか?」という声が社内から出てくる。これから伸びるという話というより、今あんまり業績よくないよねという話になり、だからリソースはあまり与えられないという話になってしまう。そうすると、買収されたスタートアップの創業メンバーは面白くないので、どんどん辞めてしまう。もともとの創業メンバーが辞めてしまったら、いよいよスタートアップは弱小グループでしかなくなり、社内からどんどん中核事業から外れた人が送り込まれて、失敗したらあそこへ行けみたいになってしまうケースがワーストプラクティスです。それに、本社の中核事業を脅かす新技術を開発している場合、メインの事業部が潰しにかかりますし、実際に潰せちゃうわけです。そうすると、結局M&Aは失敗だったとなって、次のM&Aもうまく進まなくなってしまうんです。そして数年後、人事がリセットしてまたM&Aに興味を持ち、シリコンバレーのスタートアップを視察に来るわけです。それを繰り返しているうちに本業がディスラプトされてしまう。これを私は非常に心配しています。

 スタートアップのM&Aというのは、事業会社のM&Aとは根本的に違うということを理解しないといけません。そしてM&A後の戦略がなければいけない。ただ、一点付け加えておくと、そもそもどこの国の大企業も、M&Aのほとんどは失敗に終わります。シスコシステムズは多くのM&Aをして伸びたという新しいパラダイムを築き上げた立役者ですが、シスコシステムズですら、ほとんどのM&Aはそんなにうまくいってないという研究結果があります。成功失敗の測り方は議論がありますが、もともとM&Aとはそんなにうまくいくものではないのです。

 また、M&AにはAcquisition Hire(通称Acquihire)、人を採用したいという目的で、会社を買うこともあります。ただ、会社を買って人材を採用した後、その優秀な人材が残る理由を設けなければいけません。わくわくするような仕事、非常に難しいが知的刺激になるような課題を与えなければ、優秀な人は残りません。そこまでM&A前に戦略を立てておかなければいけないのです。

8、「うちで作れますよ症候群」でスタートアップを過剰否定

 外部から新しいサービスや技術を取り入れる場合、既存の部門は自前じゃない技術に対して、過剰に否定的になりがちです。「そんなサービスうちでもできるよ」と言って、既存の事業部が潰しにかかることがあるのです。これは「それならうちでも作れるよ症候群」とでもいうべきものです。

 これに経営陣がどう対応すべきかというと、こうです。「あなた方がこれを作れる技術があるのはよく知っています。よく知っていますが、6ヶ月以内に必要なんです。6ヶ月で作れますか?」「いや、3年かかります」「3年も待てません。ではその素晴らしい技術力で、他の中核のサービスに注力してください。会社としては6ヶ月以内にこのサービスが必要なので外部から買ってきます。自社の技術力を評価してないわけじゃありません」。そういうコミュニケーションを、経営陣から技術部門に対して行わなければいけません。

9、トップが新しい技術、ビジネスを評価できない

 多くのスタートアップは、未熟な部分をたくさん抱えています。優秀な人であれば、スタートアップの問題点をいくらでも指摘できるでしょう。「市場が存在するというデータが十分にない」とか「ビジネスアイデアの考え尽くされてないところがある」とか「技術の汎用性がまだ実証されてない」とか。減点主義の会社の場合、じゃあこのスタートアップはダメですね、ということになる。

 でもそれでいいのでしょうか? たとえば、テスラやスペースXなんて、突っ込みどころが満載だったわけです。普通に考えれば無理筋なアイデアでしょう。「テスラのようなスタートアップに、ものづくりはできない。パーツの寄せ集めでは自動車はできない」。そんな意見が多かったと思いますが、でもテスラはパーツの寄せ集めではなく、自前で相当つくってた。垂直統合でやったわけです。スペースXも「着陸するロケットなんて不可能だ」と言われていました。でも、実際に再利用可能な着陸ロケットが実現しました。日本のいろんな重工さんとか、それこそNASAの下請けの会社も驚いていました。

 テスラやスペースXがこれからも伸びるかどうかはわかりませんが、少なくとも現在テスラの時価総額はフォードを超えています。テスラを見くびっていたら、結局テスラに自社のマーケットを全部持っていかれる、そんなパターンはありえます。携帯電話のガラケーがこのパターンでしたよね。マイクロソフトの当時社長だったSteve Ballmerですら、iPhoneは値段も高くてキーボードもないのでビジネスには絶対不向きだと否定的でした。しかし結局、日本勢はiPhoneに全部持っていかれて、ほぼ全滅でしたね。では、自動車は違うのか、ガラケーのようにならないと言えるのか? ロジックの通った根拠をベースに議論しないといけません。

 ちょっと脱線しますが、2003年ごろ世界の家電市場がデジタル家電に移行した時、日本の大手メディアにこんな記事が結構載りました。「日本のメーカーはデジタル家電に強い。日本はすり合わせの部品が強いから、これから来るデジタル家電には強い」と。私は最初からそのロジックが分かりませんでした。デジタルだとすり合わせの部品が少なくなるので、日本が一番苦手とすることじゃないですか。なぜ日本はデジタル家電に強いという共通認識が出てきたんでしょうか。私はシリコンバレーから見ていて、すごく違和感がありました。それで結局、数年後、市場を全部持っていかれる勢いでディスラプトされてしまいました。

 いまシリコンバレーから新しい技術がたくさん出てきます。ただその技術が、自社のどういうペインポイントを解決してくれるのか、業界のどういうペインポイントを解決してくれるのかを考えなくてはいけません。たとえば、シリコンバレー発でないかもしれませんが、いまブロックチェーンが流行しています。では、ブロックチェーンじゃないとできないものは何か、何を解決してくれるのか。そういう思考にならないと、あやふやな新しい技術ブームに乗せられてしまいます。

 業界のペインポイントを解決する技術は、自社のビジネスを完全に否定する可能性もありますが、マーケットを全て持っていける可能性もあります。ですから、経営者はスタートアップの新しいサービス・技術をきちんと評価できないといけません。でも、日本の経営者はそういった訓練を受けているわけではありません。社内で出世していく力と、戦略的なビジネスや技術を評価するスキルはだいぶ違うんですね。出世していくスキルと、出世したポジションで必要とされるスキルがマッチしていないんです。スタンフォード大学が行っているエグゼクティブエデュケーションは、CEOへのトレーニングですが、日本の経営陣はそういうトレーニングをそれほど受けていませんね。

 大企業で大変な競争を勝ち上がって役員になり、社長になった人は、自分で新しい技術を評価するというのはなかなかやりません。たとえば、日本の銀行のトップのどれくらいの人がブロックチェーンを理解していますか。地銀、都銀含めて、銀行の頭取でどれくらいいるんでしょうか? 理解している少数の頭取は本当に素晴らしいと思いますが、理解している方が珍しいというのはまずい状況だと思っています。

10、既存のプロセスに縛られれば、いずれ会社は潰れる

 アマゾンのジェフ・ベゾスが株主総会で「会社の決まったプロセスに則っていればそれでいい、という中間管理職が増えると、会社は死ぬ」と話していました。今あるプロセスに則っているかそうでないかではなく、何が顧客にとって良いのか、ビジネスとして最適なのかの軸で考えるべきです。

 最近の衝撃的なニュースで、プロセス重視に陥った例が、航空会社のユナイテッドです。お金を払った乗客を機動隊みたいなのを使って引きずり出すのは、いくらなんでも常識外れでしょう。それにもかかわらず、ユナイテッドのCEOは最初のオフィシャルな発言で「従業員は皆プロセスに則っていた」と擁護していました。

 比較的高齢で凶器などを持っておらず、暴力も振るっていなかったお客様に対して、脳震盪を起こして無意識になったところを床に引きずりながら飛行機から下ろすというカスタマーサービスになったにもかかわらず、社長からは「我々の社員は正しかった」という言葉が真っ先に出たわけです。これはカスタマーサービスの基準が「プロセスに則っているか否か」という軸のみに陥ったからです。

 アメリカの国内線のカスタマーサービスは、脳震盪と紙一重という大変なストレスなのですが、実はここ10年ほどの相次ぐ合併で競争の度合いがかなり減ったので、それでも生き残れるのです。逆に言うと、今は競争の度合いが足りなく、国内で守られている業界が何かの拍子に競争にされされると、一気に既存のプレーヤーが淘汰される危険性があるということです。

 大企業というのはプロセス重視に陥りがちです。スタートアップを買収して、社内のプロセスに則ってうまくいかなかったら、当事者たちは減点されません。でも社内のプロセスと違うことをして失敗したら、「プロセスに従ってなかっただろう」と減点されてしまうかもしれない。でもそのプロセスが、スタートアップを買うために作られたものでなかった場合、プロセスに従ってもうまくいくはずもありません。そして、プロセス主義によって生まれる機会損失とは、その大企業に対して今までなかった競争が一気に来ると、突然ディスラプトされる危険性があるということです。だからプロセス重視になってしまうのは危ないんです。

 このワーストプラクティスを避けるには、社内でプロセスの違いを理解し、違うプロセスを適用させていなければいけません。スタートアップとは、これまでと違うプロセスで進めなければいけないんだと社内を説得していくんです。たとえば、ホンダの杉本さん NDA締結の時に行ったことですよね。これはとても難しいことなので、まだほとんどはうまくいっていません。でも、彼らの取り組みを見習いながら、うまくいった会社こそが最終的に勝ち、うまくいかない会社はいずれ潰れていくのです。

 日本企業にはまだまだ絶大なポテンシャルがあると確信しています。しかし早くシリコンバレーを活用し、ワーストプラクティスを避けながら飛躍していかないと様々な業界が横断的にディスラプトされてしまうという強烈な危機感を抱いています。非常に興味深い取り組みと成功例で、でもそれに甘んじることなく先に突っ走っているヤマハ発動機やコマツ、そしてソースネクストの松田社長の例もぜひ参考にしてほしいと思います。

櫛田 健児
スタンフォード大学アジア太平洋研究所
研究員
1978年生まれ、東京育ち。父親が日本人で母親がアメリカ人の日米ハーフ。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所研究員、「Stanford Silicon Valley - New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、論文には「シリコンバレーから見るブロックチェーンのポテンシャルと課題」扇、柳川、岩下編著『ブロックチェーンの未来』(日本経済新聞出版社)、「情報通信の政治経済」依田、根岸、林編著、『情報通信の政策分析 : ブロードバンド・メディア・コンテンツ』(NTT出版)の他、様々な英語論文があり、日本経済新聞、日経ビジネス、東洋経済、NHK、ニューヨークタイムズ、ウォールストリートジャーナル、PBSなど、各種日英のメディアに出演、インタビューされている。
http://www.kenjikushida.com/

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