2019/1/16/ 13:44

シリコンバレー発AI革命の本質。「AIを何に使うか」を見つけた者が勝者となる

シリコンバレー発AI革命の本質。「AIを何に使うか」を見つけた者が勝者となる
スタンフォード大学アジア太平洋研究所 Research Scholar
櫛田 健児Kenji Kushida

飛躍的な技術進歩を遂げ、大きな注目を集めているAI(人工知能)。 “GAFA”と呼ばれるIT大手企業4社(Google、Apple、Facebook、Amazon)はAIをどう活用しているのか。そもそも、歴史的に見てAIのような新技術は世界をどう変えてきたのか。20年前にシリコンバレーに渡り、現地の動向と数多くの日本組織を見てきたスタンフォード大学の櫛田氏が、AI革命の本質と日本企業のシリコンバレー活用について語った。
※本記事は「Silicon Valley - New Japan Summit」のトークセッションの内容をもとに構成しました。

櫛田 健児(くしだ けんじ)
1978年生まれ、東京育ち。父親が日本人で母親がアメリカ人の日米ハーフ。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所リサーチスカラー、「Stanford Silicon Valley - New Japan Project」のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、『インターナショナルスクールの世界(入門改訂版)』(アマゾンキンドル電子書籍)がある。http://www.stanford-svnj.org/

GAFAは世界で最も早く付加価値をつけてきた

 日本企業がシリコンバレーで陥りやすい失敗パターンである「ワーストプラクティス」の避け方を模索していくと、「シリコンバレーで作られている価値というのはどういうものなのか」、そして「勝負の土俵を作り変えてきたシリコンバレーは、どういう仕組みで動いているのか」という本質的な部分を考えていくことになります。

 それでは、本質の話に入る前に少しおさらいしてみましょう。シリコンバレーから見ると、世界のあらゆるところに付加価値、英語で“Value”を作り出すチャンスが見えます。シリコンバレーには、GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)など、世界で最も早く付加価値をつけてきた大企業が存在します。 同時に、急成長するスタートアップと、それを作り上げる仕組みが備わっています。

 世界ではイスラエルを始め、色々なところにいくつもの技術のシーズが生まれますが、それらのシーズはシリコンバレーに持ってきてこそスケールできます。そしてスケールするには、新しい業界を作るか、既存の業界をディスラプトさせるかになります。

補足:Amazonの本社はシアトルにあるが、数多くの重要な開発拠点はシリコンバレーの人材を活用するためにシリコンバレーにある。

飛躍的に伸びるAI技術、革命の始まりは2012年から

 AI(人工知能)とは、一番簡単に言うと「データ・画像・音声をパターン認識する」ということです。AIには、マシンラーニング(機械学習)やディープラーニング(深層学習)など様々な種類の技術があり、様々なタイプと手法がありますが、基本的にはパターン認識です。

 現在のAIの飛躍的な伸びには、専門家も驚いています。特に、ニューラルネットワークを使ったディープラーニングが飛躍的に伸びています。

 近年のAI革命の転換期は、2012年に画像認識の正解率が初めて人間を上回ってからです。2014年にはイギリスの人工知能企業であるDeepMind(ディープマインド)をGoogleが買収、2016年にはディープマインド開発の「AlphaGo」(アルファ碁)が囲碁の世界チャンピオンのイ・セドルを3勝1敗で破りました。

 その翌年には「AlphaGo Zero」(アルファ碁ゼロ)が、アルファ碁に100勝0敗という実績を出し、飛躍的な伸びを世界に見せつけました。

 2016年、一時期は全世界の消費電力量の0.01%をデータセンターが占めていて、その消費電力の軽減を目標としていたGoogleは、ディープマインドを自前のデータセンターの空調最適化に活用。その後、ディープマインドのAIプログラムによりデータセンターの空調効率を40%も向上させ、結果として15%の電力消費減を実現しました。

 では、このツールを白物家電ならぬ「シロモノAI」として色んなものに外部向けに使える仕組みを作ったとしましょう。例えば、月10ドルで誰もがこのレベルのAIを使えるようになったら、あなたは何を最適化させますか? 色々思いつきますよね。

 末端の社員でも使える月10ドルのディープマインド級のAIツールが出てきたなら、いろいろ我々が今考えていない使い方も現れて、人類は大きく変化するでしょう。今現在を見てみても、2年前は解けなかった問題が、いとも簡単に解けるようになってきたのですから。

写真:Rod Searcey

AI革命の本質は「誰が何をするのか」

 それでは、広い意味でのAI革命の本質についてお話しします。AI革命の本質は、AIという技術的特性にのみかかっているものではありません。「AIという技術で何ができるのか」という話ではなくて、「AIという技術で誰が何をするのか」というところを見る必要があるのです。その技術を誰がどうやって価値に引き上げるのか、これが本質です。

 そもそも、ほとんどの技術の進展と浸透は、その技術の特性のみで決まるわけではありません。例えば蒸気エネルギーは、ベッセマーが鋼鉄生産法を発明したことで鉄道レールに使用され、物流が激変し、人の動きに革命が起こりました。世界の貿易は、アメリカの五大湖をつなぐ運河とパナマのスエズ運河という巨大なインフラ工事により大きく変わりました。

 ガソリンエンジンは、補完技術である電気スターター技術により初期の電気自動車に勝利しました。コンピューターはもともと大きな電卓でしたが、データベースの発明により初めて違う用途に使えるようになり、情報革命が起こりました。このように、どんな技術も補完関係が強い別の技術の開発と導入により活かされるわけです。

 AI革命の中で考えていくべきことは、AIでどういう価値を作っていくかということです。今のGAFAのビジネスは、AIで大きな恩恵を受けながらAI開発に大きく還元し、そのリソースでフロンティアを推し進めています。

 AI研究者と話すと分かりますが、GAFAにいるAIの最先端研究者は膨大なリソースが使えます。その会社しか持っていない貴重なデータも使えます。データもプロセスパワーも人材も資金も投入できたら、何もない状態で開始するよりスピーディーな開発が見込めます。

 また、GAFAはAIを使ってスケール可能な個人最適化を行なっていて、あらゆる人々の行動やプレファレンスを常に測っています。「お客様が何をしているか」だけでなく「お客様に何を提供しているのか」という価値を測ることさえも価値となっているのです。

 GAFAが取り組んでいる研究は多岐に渡っています。例えば、Facebookなどは依存症ギリギリのラインで感情の起伏をもコントロールする実験をした上で成り立っていて、これにAIを使っているわけです。

 Googleも、居場所・行動・買い物など、恐れられるくらい色々なものを測り、常に実験を進めています。MicrosoftもBingを使った実験により、認知症の初期の段階はマウスの動きで測れるAI研究を行っています。Amazonは妥協ない物流の最適化と無人化を実施。

 彼らはコアの価値を提供するにあたり、最先端のAIを開発し、自ら活用しています。そこからさらにAIのフロンティアを推し進めているというわけです。

写真:Rod Searcey

なぜシリコンバレーは付加価値を創るのが得意なのか

 付加価値というのは、特定の場所に住んでいる人のペインポイントの種類や度合いから出てくる問題解決方法が、世界にスケールするという力学で急速に高まることがあります。

 例えば、配車サービスを提供するUberは、交通の便の悪いシリコンバレーでは非常に役に立った。これが交通の便が良い東京だったらピンときませんよね。でもシリコンバレーでの問題を解決したUberは、急速に世界展開し、競争相手も多く現れ、Mobility As a Service (MaaS)という概念まで作ってしまった。ローカルな問題解決の方法がシリコンバレーの仕組みで世界にスケールした例で、世界の各企業が根本的に付加価値を考え直さなくてはいけません。

 またAR/VRを例として考えると、特にVRはまだ付加価値が不明確です。それと連動してやってくるハプティクス(触覚技術)など、補完関係にある別の技術が重要になります。VRじゃないと解決しないペインポイント、そしてそれを解決するVRと他の何かとの補完関係での活用法が現れて初めて本当の付加価値となるのです。

 ここで、シリコンバレーと付加価値について話になります。初期のインターネットは「どこに価値があるのか」が不明確でした。インターネットサービスプロバイダ(ISP)に価値があったのでしょうか。たしかにインターネットにつながるニーズがあり、そこにつなげるというビジネスとしてISPは乱立しました。でもすぐにコモディティ化しました。

 ネットワーク機器に価値があったのでしょうか。まずはインターネット機器がなかった頃に入ってきたCiscoが大きく飛躍し、デファクトスタンダードを握って既存の通信機器メーカーに圧勝しました。でもインターネット周りの付加価値はそこ以外にたくさんあったわけですよね。

 ブラウザーに価値があったのでしょうか。NetscapeのIPOにより90年代半ばからIPOラッシュに火が付きましたし、Microsoftもブラウザーとウィンドウズをバンドリングしたので独禁法の対象になりました。ただ、結局、長期的には価値はブラウザというインターネットへのアクセス窓口じゃなかったですよね。Yahoo!はインターネットのコンテンツの手作業で集めたリストであり、ポータルなので、一時期は付加価値となりました。

 しかし、そこでコンテンツの検索と広告を連動したGoogleが大きな付加価値を生み出しました。わずか15年でGoogleは世界トップ企業に躍り出たわけです。Eコマースは実にたくさんのスタートアップがインターネットを通して通販を試みましたが、付加価値を提供できたAmazonが残り、世界のトップ企業となりましたが、他はインプリテーションがうまくいかず、付加価値が足りずに残りませんでした。

 新しい技術が現れていて付加価値のつけ方がまだ分かりづらい場合、シリコンバレーは特に強いんです。シリコンバレーという地域自体が大量のスタートアップで溢れ、付加価値をどういう風につければいいのかを常に模索しているわけです。

 どういう風に付加価値をつけたらいいかわからないから、もちろんバブルにもなります。でも付加価値を発見して創り出したスタートアップは急成長して大企業になります。まさにGoogleがいい例です。ガレージから若者2名が始めた会社が付加価値を見つけて、追求し、短期間で時価総額とキャッシュ保有ランキングで世界3位以内に入るまでに猛烈に成長しました。付加価値を見つけたから、こんなに急速に大きくなったのです。

ワーストプラクティスを避けて、生き残りをかけよ

 こんなシリコンバレーを活用しようと、世界各国の大企業は様々な取り組みをしてきました。しかし、なかなか難しいのが現実です。そんな中、日本企業がシリコンバレーを活用しようとする場合、かなり決まったパターンのワーストプラクティスに陥ってしまいます。普通の日本企業の動きが、シリコンバレーでほとんど通用しないものになってしまうのです。

 まず、「とりあえず事業所を開設して、駐在員を送り込む」「ふわっとした『情報集め』や『戦略パートナー探し』をミッションとする」という日本企業がよく見受けられますが、目的とビジョンを明確にしておく必要があります。また「決裁権・リソースがないため、スタートアップと具体的な商談ができない」「本社にばかり目がいき、上層部の表敬訪問の対応に追われる」など、本来の目的である業務以前で足踏みしているケースも見られます。

 さらに、「左遷した人材、または経験の足りない若すぎる人材を送り込む」「3年任期で交代になるので、長期的な仕事ができない」など、人事面において意識が低い企業もありがちですね。「日本流のアピール方法から抜け出せない」「現地採用の人材を評価できない」などの場合は、シリコンバレー流のノウハウを学んでいこうとする姿勢をまず持ちたいところです。ワーストプラクティスはまだまだありますが、それを避けるために、日本企業は手を打つ必要があります。

 シリコンバレーは気候は素晴らしいですが、本当は怖いところです。勝てる技術とビジネスモデルが不明確な場合、大量のスタートアップがそこにトライします。そして大量のスタートアップが競争してその大半が淘汰され、生き残った強い企業が、新しい業界を作ったり、既存の業界の付加価値の勝負の土俵をディスラプトしながら急成長するという仕組みになっているんです。

 世界的な大企業ですら、ディスラプトを避けるために必死にスタートアップと付き合い、新しい波に乗れないと淘汰されます。シリコンバレーはそういうところです。

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写真:Rod Searcey

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